2007年12月

2007年12月24日

てのひら怪談2だだ洩れ感想11

【夏の終わりに/立花腑楽】
安定感:★★★★
郷愁:★★★
奇妙さ:★★★

 腑楽さんの書かれる作品は大半私の好みど真ん中です。「吉田爺」も好きで、この作品は吉田爺ほどのインパクトの強さはないのだけれど、ディテールの巧さが心地よい余韻を引きだしてくれる感じ。わざとらしくない範囲での怪しい人物像の描写がうまいよなあ。蝉は茶色っぽいイメージがあったので、前半であれだけ茅蜩が描写されていたにも拘わらず「黒くてカサカサ」で真っ先にゴキブリが浮かんでしまった。「また来年な」という男の科白とラストの秋を告げる風がいろいろ想像を掻き立てる。ただ真っ黒なコートの大男と自転車の「凄い速さ」がどうしても滑らかに結びつかず。今までゆうたりとした流れだったものが、何かここだけ俗っぽい都市伝説のような印象を受けたのかもしれない。

【狐火を追うもの/五十嵐彪太】
怪談度:★★★
柔らかさ:★★★☆
奇妙さ:★★★

 いつも遊んでくれる超短篇のひょーたんさん。また遊んでね。派手な物事は起こっていないのでうっかり読み流してしまいそうなのだけれど、怪談話としてはかなりオーソドックスな部類の作品だと思う。ちょっと拙い感じの文章とか、女の子に抱きついたときに「同級生に見られたらどうしよう」と思うところとか、未成熟な少年っぽさが出ていてよい感じ。本当に女の子を助けたいならなりふりかまうなよ、とも思ったけれど。この弱虫め。それにしてもこの子の直感は的中しすぎる。ひびだらけの「人形」が「血を流し」ているというのは、実に隠微だな。タイトルが「物」でも「者」でもなく「もの」なのがいい。

【不思議なこと/神森繁】
奇妙さ:★★★
落ち着かなさ:★★★
怪談度:★★★

 何から何まで漠然としすぎているように思った。山を「××山」とすることでどこででもありうる出来事だと感じさせることは出来るけれど、そのぶん身に迫るリアリティに欠ける印象。掘ればいくらでも鏡が出てくるのならばそれに添った名前がついていてもよかったんじゃないかな。鏡と山の関連性もよく判らなくて、別に埋まっているのが鏡でなくとも成立してしまう。何か怪しいイメージだけで鏡を出したっぽい。もう少し説明がほしい。「不思議なことをしようか?」という祖母の言葉は怪しくてよいな。言葉とどこまでも飄々とした祖母の態度が、奇妙さを引き立ててくれている。

【影を求めて/山村幽星】
郷愁:★★★
美しさ:★★★☆
柔らかさ:★★★☆

 まず、美しいなと思った。文章も描写された情景も話す言葉も。どれもにかなり気を配っているのだろうし、それがあざといとも感じなかった。町並みの描写は特に細かでにおいや風まで感じられそう。影の使い方もいいな。しかしどうしてもイメージ先行になるのでややともすれば取り残されがち。一度目より二度目のほうが味わい深く感じたのはその所為かも。

【散歩にうってつけの夕べ/散葉】
ポップ度:★★★☆
奇妙さ:★★★
シュールさ:★★★

 最近めったにお目にかかることのない二千円札というだけで、何だかこれから奇妙なことが起こる感じがしますな。リズムのよい砕けた文章も小気味よい。「俺、十六夜にほろ酔い」がすごく好きだ。でも何で出目金 (墨汁) のくだりでは「~一筋の墨汁で"あった"。」と文語調なのだろう。ここだけとても気になった。墨汁を皮切りに事態がどんどん頓珍漢な方向に進むのが面白い。これまでの砕けた文章がとても活きている印象。


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2007年12月22日

吸血鬼内輪向けレポ

 かなり内輪向けのレポ。吸血鬼イヴェントに行ってきました。15時半にひょーたんさんと待ち合わせてデート。チケットの予約から何からすべてしてくれて、感謝。お前もちったあ何かしろよ、という感じ。まずは展示されている作品を鑑賞。山本タカトさん大大大好き! 三浦悦子さんの球体関節人形も大好き! 丸尾末広さんも大好き! 山本タカトさんの個展には何回か行っているし、三浦悦子さんの人形も見たことがあるのだけれど、丸尾末広さんの原画は初めて見た。やっぱりすごく奇麗だなあ。漫画でも奇麗なのだけれど、さらに奇麗。
 ひととおり見たあと、喫茶店でお茶。サイン (署名) をさせてもらう。何か指先ぷるぷるしちゃったよ。いいのか、私が本に書きこみしてしまって。私もひょーたんさんからサインを貰った。やった。このとき話題に上ったけれど見つけられなかった作品は、未だに見つけられていない。どこいっちゃったんだろう。いや、本のなかにあるはずなんだけど。あとはディープな話をしたり聞いたり。
 そろそろ時間だと会場に戻ると、峯岸さん発見。相変わらずな感じで、よろしいんじゃないでしょうか (笑)。その後もてのひら作家の皆様が続々いらっしゃって、テンションが上がる上がる。男性の方々は仕事帰りでスーツ姿が多かったのでよけいに。楽志さんのスーツとか、ええもん見た。ひょーたんさんと一緒に皆さんからサインを貰いまくる。皆さんとてもお優しくて、快く書いてくださった。嬉しい。本当にありがとうございます。そして私は腑楽さんに変態行為をしまくった。お逢い出来たのがものすごく嬉しくて、何かあちこち撫で廻してしまった。笑って応じてくださっていたけれど、正直ご迷惑だったんじゃないかと思う。しかも初対面なのに。何度も握手をせがんで申し訳ありません。お肌の奇麗な、知的な感じの方でした。爽やかで。
 添田さんと逢うたびテンションがこんななので、これが通常と思われてしまう。違うんです、いつもはもっと喋らないんです。
 イヴェントの内容は添田さんがブログで細かにレポートされているのでそちらを読んだほうがよく判るんじゃないかと。クジラマクさんの作品で始まり、我妻さんの作品で〆。大賞を獲った金子みづはさんの「夜想曲」は、元々の朗読には組みこまれていなかったので最後に急遽朗読されたけれど。朗読を念頭に置いた作品も多く、SEや照明が効果的に使われていて愉しめました。しかし朗読すると800字が非常に長く感じられた。それがいい悪いとかではなく、あれ、800字ってこんなに長かったっけと。超短篇に慣れているからなのかもしれないけれど、300字の差はやはり大きい。内輪で500文字の朗読ごっこは確かに面白そう。今度やろう。
 最後に受賞作の掲載された紙を戴いたのだけれど、やっぱり目で読むのと耳で聞くのでは印象がずいぶん違うものだなあ。東さん・菊地さん・今野さんのトークも面白く、非常に有意義な時間だった。
 イヴェント後は飲み会にも参加させてもらった。東さんはじめ有名な方々がたくさんいらっしゃったのに、ほとんどお話し出来なかったな。残念。


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てのひら怪談2だだ洩れ感想10

 東さんがブログで紹介してくださっているギャー!! ありがたい……怖ろしい……。

*

【鏡/別水軒】
不安感:★★★★
怪談度:★★★☆
奇妙さ:★★★

 鏡というアイテムも怖いけれど、誰のものか判らない (どんな感情が染みついているか判らない) 品を自分の領域である家のなかに入れるというのは、本来とても怖ろしい行為だと思う。うちはたまに父親がそのへんの道端に落ちていたものを拾ってくるのだけれど (困った親父だ)、そういうときはやっぱり厭ぁな気持ちがする。そういう心理を形にするのがうまいなと思った。「川」の字になって寝ているところが仕合わせ家族のステロタイプみたいでいい。招いた厄災の対比になる感じ。子供の頃の話だという前置きは、あまり機能していないので必要ない気もする。

【風呂/駒沢直】
シュールさ:★★★
奇妙さ:★★★
怪談度:★★☆

 正直、最初に読んだときは「だから?」と思ってしまった。何回か読んで、出てくるキャラクタが○ッキーだからよいのかなと結論した。世界中のアイドルなのだろうけれど、やっぱりあの笑みは似非臭いよな。あからさまでないからこその粘っこい似非臭さとでも言うのかな。無邪気な振りをすればするほどそれはいや増して、開いた口をしっかり両手で押さえる仕種をさせているあたり、そのへん考えて書いているのかなとは思った。でも○ッキーのキャラクタイメージに頼りすぎな気もするし、○ッキー以外の似非臭いキャラに置き換えても何ら支障はない感じだし、作品の力は弱いかな、やっぱり。

【使命/水棲モスマン】
不条理度:★★★
奇妙さ:★★★
奇抜さ:★★☆

 「なぜ、この店は~」の問題提起のような一文にはあまり必要性を感じなかった。ここだけちょっと、浮いて思えたので。使命というほど切羽詰まった印象も看板からは受けないなあ。どちらかといえば主人公のほうが使命を背負っている感じ。それも誰から託されたわけでもない、確信犯のような思いこみからくる使命。ちょっと滑稽で面白い。それも含めてこのタイトルなのだろうと思う。「信じ難い災厄の予言」が何か、私には判らない……ので、なぜその予言がこの店でなければならなかったのかとか、牛は関係あるのかどうなのかとか、いっぱい疑問点が残ってしまう。ディテールが生かしきれていない印象。結局この災厄は主人公の尽力で回避されたと捉えてよいのだろうか。

【町俤/酒月茗】
郷愁:★★★☆
濃厚さ:★★★
しんみり度:★★★☆

 着流しにパナマ帽の白髪男性の人物像が際立っていてよかった。町の雰囲気とよく合っているなあ。さりげない町並みや風景の描写にノスタルジーを覚えて、挿入される男性の科白でそれがまた高まる。後半の濃くなった陽炎と空気の暑さのくだり、効果的だとは思ったのだけれどやや戸惑いも覚えたのは、前半の照り返しのない道や風鈴の音の清々しさから受ける涼しさが強かったからかもしれない。「薄汚い町」が物悲しい。

【カツジ君/粟根のりこ】
しんみり度:★★★
柔らかさ:★★★☆
怪談度:★★★

 西瓜の半分完食に挑戦ってすごいな! と、まるで本筋に関係のないところにまず関心を示した。「ガッカリさせてしまう」とは、カツジ君が戦死したことになのか、寛さんに自分が死んでいることを気づかせてしまうことになのだろうか。両方死んでしまっているのだから、早く教えて再会させてあげるのも手だったんじゃないかとも思うのだけれど。あと、お父さんも主人公に寛さんのことを教えておいてあげればよかったのに。寛さんのことは家族のなかで一度も話題にのぼらなかったのかな。でも話も登場人物も温かで、読んでいて何だか優しくなれそうです。

【グラマンの怪/うどうかおる】
不安感:★★★
やるせなさ:★★★☆
郷愁:★★☆

 この怖さはたぶん、私には一生判らないんじゃないかと思う。グラマンやばらばらと鳴る弾、知らないおばさんの気が狂ったような声、それらを生々しいと表現してよいのかどうかも判らないし、私がそう表現するのも何となくおこがましいような気がする。ただ、きれいなお兄さん、に、ぞっとなった。非日常のなかのさらなる非日常、あるいは日常のなかのさらなる日常。恐怖の頂点を越えて魅入られた何か。うまく表現出来ないのだけれど、そういうひとくくりに出来ないものがそこに凝縮されているように思った。


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2007年12月20日

てのひら怪談2だだ洩れ感想9

【怖いビデオ/崩木十弐】
奇妙さ:★★★☆
しんみり度:★★★
不安感:★★★

 時間軸が乱れているわけではないのに、読んでいてなぜだか混乱した。最初にビデオと母のことを克明に語られたあとで中学になったところが出てきて「すっかり忘れていた」と言うのや、その次の「テープが火事で……承知のはずだった。」のあたりのニュアンス的な辻褄の合わなさが気にかかるのかも。何となく、すっかり忘れていたっていう感じには思えないのだな。怖いビデオの存在やタイトルはそつがなさすぎる気もする。気もするけれど、だからこそ奇をてらいすぎなくていいのかもしれない。行方知れずになった母が怖いビデオではなく「面白いビデオ」と表現したところに何かしらの含みを感じてしまう。

【シミュラクラ/林不木】
いやらしさ:★★★★
グロ度:★★★☆
不安感:★★★

 シミュラクラという言葉を寡聞にして知らなかったのだけれど、なるほど「類像」「擬似生命体」という意味なのか。実に洒落と皮肉の利いたいやらしくてよいタイトルだ。タイトルがいやらしければ、内容もいやらしい。登場人物もおよそまともじゃない。でも全部が全部異常だから、反対に奇麗にヴァランスが取れているという感じがする。加えて締めの「去来神と戦うまじ。」の一文なんかはちょっとおどけていて (過剰なルビもそうだ)、心地よく手の上で転がされた。

【ディアマント/小栗四海】
哀愁:★★★☆
安定感:★★★★
奇妙さ:★★★

 おそらく名取洋之助について深く知ってから読めばこの話はもっと愉しめるのだろうけれど、ほとんど知らない私が読んでも充分に愉しめたし、何やら郷愁さえ覚えた。淡々としてそれでいて洒落た語り口の所為だろうと思う。ここに出てくる幽霊は優しく、そして、死んでいるけれども生き生きしているな。ディアマント (ダイヤモンド) というタイトルにすべてが凝縮されていると感じた。これ以上なくしっくりくるタイトル。

【狐がいる/井下尚紀】
可愛さ:★★★☆
奇妙さ:★★★
ポップ度:★★★

 眠れない夜に狐の影を襖に映して遊んでいたら自分の手じゃない狐が現れたという、言ってみればそれだけの話なんだよね。主人公も特に恐怖しているわけではないから、よけいに何でもなさが際立つ。でも、何でもなさ=ちょっと寂しい日常、みたいな気がして、この主人公は一人暮らしなのかなとか毎日同じような生活を繰り返しているのだろうなとか、書かれていない生活じみた部分をいろいろと想像させてくれた。きっと同じような眠れない夜を過ごしていた誰かの手の影が、たまたま同じ空間に繋がっちゃったんじゃないか。

【踏み板/井上優】
奇妙さ:★★★★
不安感:★★★
怪談度:★★★

 これ実話だったんだと、プロフィール文を読んで思った。きちんとした物語に仕立て上げるのがうまいなあ。何だか素敵で羨ましい体験。この作品では短い会話文が効果的だなと感じたのだけれど、それではこれらも実際に交わされた会話なのかしらん。とりわけ「邪魔だったんだろうな」がよいエッセンスになっていると思った。こういう身近にあるちょっとした怪は、どうしても愛着が湧いてくるものだよね。この踏み板には是非ともまたばんばん鳴るようになってほしい。


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2007年12月19日

てのひら怪談2だだ洩れ感想8

【アキバ/亀ヶ岡重明】
奇妙さ:★★★★
不条理度:★★★☆
奇抜さ:★★★

 なぜか女性教師ではなくて男性教師だと思いこんでいた。読み返してみたら、女性だった。言葉遣いの所為かな。こういう手法はわりによくあるものだとは思うのだけれど、文章のさりげなさがうまいと思う。妹が「何で毎朝、みんなの前で体操してるの?」というところなんかは二重の意味合いが含まれているわけで、秀逸だなあ。片仮名でアキバというとどうしても秋葉原を連想してしまうのだけれど、特別関係はないのですな。でも漢字を当てていないのは、人間臭くなくていいかなあとは思う。

【せがきさん/仲町六絵】
奇妙さ:★★★★
怪談度:★★★
グロ度:★★★

 こっくりさんと施餓鬼のドッキングといった感じなのかな。でもどちらかといえばほとんどこっくりさんのような気もする。施餓鬼は願いが叶ったりはしないものね。何で教室限定なのかなあ。ほかの場所ではいかんのか。最初、「下校時」と書かれていたのに夜の教室でもOKなの?
 担任の先生には赤ん坊大の塊は見えていないのかな。絶えずちゅ、ちゅ、と音を立ててしゃぶっているさまはグロくて素敵だわ。先生の頭に食いついた時点で先生死んだと思ったのだけど、いい意味で裏切られた。どうやら寄生されちゃったようですね。

【問題教師/貫井輝】
ポップ度:★★★☆
奇抜さ:★★★★
センス:★★★

 こういう喋り方をする人はぶっ飛ばしたくなります、個人的に。中身があるようなないような掴みどころのない感じは手法的にとてもうまいと思うのだけれど、ああ、もう、ぶっ飛ばしてえ。「迷惑くない?」とか変な活用すんな。とはいえカラーがよく出ていて好もしい。途中、話が脱線する具合なんかもいいし、タイトルの揶揄具合も好きだ。祓おうとして呼んじゃうのも問題だけれど、呼べるだけすごいとも思うんだ。

【帰り道にて/椎名春介】
奇妙さ:★★★
不安感:★★★★
不条理度:★★★☆

 奥歯に挟まったものがなかなか取れない、痒いところに手が届かない、非常に厭な感じ。たとえばグロい描写などは確かに初見強烈な不快感を残すかもしれないけれど、いずれは慣れてしまう。でもこういう収まりどころのない気持ち悪さというのはなかなか慣れない。誰しも一度くらいは、見知らぬ人の笑い声におびえるとかいう経験があるのじゃないかと思うのだけど、これはそういう身近な感じの描写だからこそ、その気持ち悪さがより生々しいように思う。でも少しおかしみもある、そんな感じ。

【鳥雲/黒田広一郎】
不安感:★★★★☆
しんみり度:★★★
奇妙さ:★★★

 島本さんの人となりは判る。けれど、島本さんの話を聞いている相手も、島本さんの話のなかの米沢も、そして山田も放火魔もどんな人なのかは具体的には判らなくて、ひどくざらざらとしていて、でもそれがいい、そこが怖い。ディテールがうまいと思う。鳥が嘴をかっと開いて僕を睨みつけるところにいろいろな意味でぞっとした。放火魔なんて、少なくとも輪郭のはっきりとした形では存在しなかったんじゃないかと思う。余談だけれど、この方のプロフィール文がとても好きだ。


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